【推薦図書】2021年本屋大賞『海をあげる』(上間陽子著)
「海をあげる」。この本の題名でもあり、最後のエッセイのタイトルであり、最後の言葉でもある。
「この本は読んだあとで、読者のなかに「海をあげる」っていう表現が重しとして残ってしまうだろうと思っています。だから、感想を言語化するのが難しいかもしれません。」
上間陽子『裸足で逃げる』『海をあげる』編集者インタビュー/下
読み終わった後、ネットで見つけた『海をあげる』の編集者柴山浩紀さんへのインタビューの記事の中にこうあった。そのとおりだ。
この本を手にとってただただ上間さんが紡いだ「言葉」に耳を傾けて欲しい。生活に結びついた平易な言葉しか使われていなのに、彼女の文章力に圧倒される。
エドワード・W・サイードは小書『知識人とは何か』において、知識人を「公衆に向けて、あるいは公衆になりかわって、メッセージなり、思想なり、姿勢なり、哲学なり、意見なりを、表象=代弁し肉付けし明確に言語化できる能力にめぐまれた個人である」と定義している。そして、知識人は個人のみならず、抑圧され、マイノリティ集団、小規模集団、小国家、劣等もしくは弱小な文化や人種とみなされる弱い立場の人たちの側、「表象=代弁されないものたちと同じ側に立つ」者のことだと言っている。
上間さんは「聞き取った言葉」を公衆にむけて「表象=代弁」する知識人だ。
その言葉には胸を締め付けられる部分もある。それでも、読み手の心の奥深くまで語りかけてくる「言葉」を聴いてほしい。そして、一緒に考えてほしい。「海をあげる」という言葉の意味を。
『海をあげる』は、2021年の本屋大賞のノンフィクション本大賞を受賞している。その授賞式のスピーチがYouTubeでみることができる。これもぜひみてほしい。
スピーチ全文はこちらから
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